村田 正幸

脳や生体の環境適応性に基づく将来ネットワークアーキテクチャの研究開発
所属:
大阪大学大学院情報科学研究科 教授
Fax:
06-6879-4544
住所:
大阪府吹田市山田丘1-5 大阪大学大学院情報科学研究科
Homepage:
http://www.anarg.jp/

先進的な情報ネットワークアーキテクチャに関する研究を進めています。最近では、特に、脳や生体の自己組織化能力や環境変動に対する適応能力を活用したネットワーク設計手法や制御手法の確立に取り組んでいます。また、CiNETの活動においては、脳機能の知見に基づいた情報ネットワークのトポロジー設計や制御に関する研究に取り組んでいます。

インターネットに代表される情報ネットワークにおいては、ノード(通信装置:インターネットではルータと呼ばれています)上で動作する経路制御によってパケットと呼ばれる単位で情報を最短経路で交換しています。そのためには、経路情報は正確で最新のものが得られているという前提があります。経路制御以外でも、情報ネットワークの設計手法や制御手法においても、伝統的に、トラヒック計測により得られた情報は正確であり、最新のものが使えるという仮定がおかれてきました。しかしながら、移動体通信ネットワークやモバイル無線ネットワークなどの技術の発展により、そのような仮定はもはや成立しません。特に通信主体の移動性、すなわち、モビリティやトラヒックの時間的な変動特性により、制御対象の変動の時間オーダは、これまで暗黙のうちに仮定されてきたシステム制御の時間オーダに近づきつつあります。その結果、これまでの発想とはまったく異なるネットワーク制御、管理、設計手法が求められています。

生命システムは、自己組織的な原理によって、周辺の環境変動に対して適応的、かつ、耐性を持つことが知られています。それを情報ネットワークのアーキテクチャとして確立することができれば、トラヒック変動やさまざまな理由で発生する故障に対して適応的に動作し、信頼のできる情報ネットワークを構築することができます。また、従来のアプローチは情報科学をバックグラウンドとして、将来の発生し得る故障も含めた事象を完全に予測できるものとして最適解を求めようとしていました。しかしながら、このような手法を用いると、すぐに解空間の状態爆発を招きます。一方、自己組織化に基づく手法は、対象システムを時間発展するシステムとしてモデル化し、制御することによって、ロバスト性や適応性を得ようとするものです。

これらの特性を有する情報ネットワーク制御のひとつがゆらぎ原理(アトラクター選択)です。ゆらぎ原理は細胞の環境適応性や脳の認知などの適応能力に基づくもので、アトラクターを有するポテンシャル関数を定義し、システムの良さを表す指標に基づいた時間発展方程式に基づいてシステムを制御するものです。われわれはアトラクター選択原理を光通信システムやネットワークの経路制御、無線ネットワークのメディア選択などに適用してきました。その結果、環境変動に対する詳細なルールを記述しなくとも、すなわち、知らなくとも、環境変動に対する適応性、ロバスト性を実現し、信頼性の高いネットワークが実現できることを明らかにしてきました。

ネットワーク利用者の立場からすると、インターネットはじゅうぶんに大きい帯域をもって高速なダウンロードができるようになっているし、携帯電話やスマートフォンは少なくとも国内ではじゅうぶんに行き渡っていると感じるかも知れません。しかし、ネットワークはこれから発展していく技術です。日々登場する新しいサービスやアプリケーションを支えていかなければなりません。特に、M2M (machine to machine communication) and IoT (Internet of Things) などと呼ばれる新しい技術ではさまざまなモノにセンサーをつけて通信することが考えられていて、通信対象は近い将来500億個、将来的には1兆をこえると言われています。現在、ネットワークに接続されている通信機器は数十億台ですから、その10倍から100倍のノードを支えていく技術が必要になります。また、ネットワークの成長を促す直近の技術として仮想化技術がありますが、将来ネットワークを見据えてCCN (content-centric networking) と呼ばれる技術についても研究が活発になっています。これらの新しい技術領域では、全体システムを分解し、解析し、コンポーネントを設計して全体を組み上げる、といったいわゆる要素還元論に基づくシステム設計手法はもはや成立しえません。

われわれは、複雑システムとしての生命システム、特に脳機能に対して、その解決策を求めています。それによって、これまでの設計思想を根本的に変え、まったく新しい情報ネットワークを構築していくことが可能であると考えています。我々が現在注力しているのは、以下のような機能を備えた情報ネットワークに関する研究開発です。
・適応性:故障発生や新しいサービスなどのあらゆる環境変動に対する適応性を備えていること
・予測可能性:周囲の環境変動を観測しながら、将来的に予測困難な事象に対応できること
・進化可能性:予測困難なシステムの発展にも適応できること

主要な業績:

われわれの取り組んできた過去の研究内容の詳細については、例えば、以下を参照してください。

K. Leibnitz, and M. Murata, “Attractor selection and perturbation for robust networks in fluctuating environments,” IEEE Network, Special Issue on Biologically Inspired Networking, vol. 24, no. 3, pp. 14-18, May/June 2010.
for general introduction to Yuragi Principle, and for actual application and implementation of Yuragi Principle, see, e.g.,

Y. Koizumi, T. Miyamura, S. Arakawa, E. Oki, K. Shiomoto, and M. Murata, “Adaptive virtual network topology control based on attractor selection,” IEEE/OSA Journal of Lightwave Technology, vol. 28, pp. 1720-1731, June 2010.

Announcements / News:

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Lab Members:

研究者
・荒川 伸一
・大下 裕一