北澤 茂

所属:
大阪大学大学院生命機能研究科 教授Fax:
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kitazawa at fbs.osaka-u.ac.jp私のCiNetにおける研究は空間と時間の知覚の神経基盤に焦点を合わせています。
私たちの「こころ」が知覚する空間と時間は、もちろん物理世界の空間と時間に基づいています。しかし、こころの空間とこころの時間が脳の中でどのようにして構築されるのかについては、まだはっきりとした答はありません。
こころの空間、を例に取りましょう。私たちは目を1秒間に3回程度、100-500度毎秒ものピーク角速度で振り回しています。しかし、こころの中の世界は全く動かないので、私たちは自分の目が動いていることに気づくことすらありません。どうしてブレた網膜像が私たちの意識には上らないのでしょうか。私たちは、ブレた網膜像がこころから締め出されている間に、一体何を見ているのでしょうか。すばやい目の運動の前後でずれた2枚の異なる網膜像は、こころの空間の同じ場所にどうやってマップされているのでしょうか。こころの時間に関して言えば、こころの時間は物理学の時間のように一定の流れ方をするというわけではありません。例えば、2つの信号の主観的な時間順序は、腕を交差したり、すばやい目の運動を行うだけで逆転します。これらの問題を解くためのキーワードは「ポストディクション(後測)」です。こころの空間やこころの時間は過去100ミリ秒程度にわたってサンプルした感覚信号から、複数の脳の領域の情報を統合することによって、脳が作り出すのではないか。私たちは「後測」の神経基盤を、ヒトに対しては心理物理学と神経画像の手法を適用し、サルに対しては神経生理学的な手法を適用して、探求しています。
目を動かしても世界が動かないのはなぜか、という問は少なくとも1000年以上にわたって、アルハーゼン、デカルト、ヘルムホルツ、といった偉大な思想家によって繰り返し発せられてきました。私たちの研究がこの長年にわたる歴史的な問や、さらに広がるこころの空間と時間とその相互作用に関する問に対して、最終的な解答をもたらしてくれることを願っています。
主要な業績:
Uchimura, M. & Kitazawa, S. Cancelling prism adaptation by a shift of background: a novel utility of allocentric coordinates for extracting motor errors. J Neurosci 33, 7595-602 (2013).
Takahashi, T., Kansaku, K., Wada, M., Shibuya, S. & Kitazawa, S. Neural correlates of tactile temporal-order judgment in humans: an fMRI study. Cereb Cortex 23, 1952-64 (2013).
Miyazaki, M., Yamamoto, S., Uchida, S. & Kitazawa, S. Bayesian calibration of simultaneity in tactile temporal order judgment. Nat Neurosci 9, 875-7 (2006).
Yamamoto, S. & Kitazawa, S. Reversal of subjective temporal order due to arm crossing. Nat Neurosci 4, 759-65 (2001).