細田 一史

階層生命システムとしての脳ダイナミクス
所属:
情報通信研究機構(NICT)
未来ICT研究所
脳情報通信融合研究センター
脳情報工学研究室
主任研究員
その他の所属:
神戸大学大学院保健学研究科 教授
住所:
〒565-0871 吹田市山田丘1-4

私達は、脳を階層生命力学系として扱い、脳機能の構築原理の理解とその応用を目指します。

脳は、学習や推論だけでなく、正常な状態を保とうとしたり、光も音もない部屋でも何かをひらめいたりできると考えられます。すなわち入力に応答する情報処理システムであると同時に、生命として恒常性をもちながら絶えず変化しつづける力学システムです。また脳も、生命システムとして階層の中にあり(分子、細胞、組織、器官、個体、個体群、群集、生態系など)、生命系である要件として、上下両側からの制約を受けています。私たちは、これら生命系としての要件が、脳機能の構築原理のカギを握っていると考えています。例えば、単細胞生物であっても高次元の力学系ですが、その状態変化は自由ではなく、極低次元に強く拘束されています。これは恒常性と適応性を両立させるためと考えられています。次元削減は高次元力学系が情報を処理するために必要かつ肝であるため、脳はむしろこの制約を不可避的に利用しているかもしれません。また分子や細胞レベルでは、シグナルノイズ比が10倍程度でも機能しなければならないなどの制約があります。しかしその制約ゆえに、むしろノイズを利用することになり、高いエネルギー効率につながっていると考えられます。このような生命力学系としての制約が、脳機能の設計原理にどのように組み込まれているかは明らかではありません。

私達は、急発達している脳科学や計算科学の知見に、生命力学系としての要件という視点を足すことで、力学系として情報処理機能を有する脳をモデル化します。現在のAI分野も生命の階層性などをアルゴリズムにした成功例ですが、さらに動的な、生々しい面を追求します。

私達人間にとって脳の理解は、人間とは何か、自己とは何か、そして生命とは何か、という理解に直結します。もちろん理解だけでなく、脳の構築原理を組み込んだモデルができれば、超省エネAIをはじめ様々な応用につながることは言うまでもありません。問いは山積みでニーズも山積み、なんて面白くってやりがいがあるのだろうと、もうワクワクがとまりません。

主要な業績:

Kazufumi Hosoda, Keigo Nishida, Shigeto Seno, Tomohiro Mashita, Hideki Kashioka, Izumi Ohzawa, “It’s DONE: Direct ONE-shot learning with Hebbian weight imprinting”, arXiv, Art. no. arXiv:2204.13361, Jun. 2022

Kazufumi Hosoda, Shigeto Seno, Tsutomu Murata, “Simulating reaction time for Eureka effect in visual object recognition using artificial neural network.”, in Proceedings of The 17th International Conference on Knowledge, Information and Creativity Support Systems (KICSS2022), Kyoto, Japan, 2022 (*Best Crowd Award)

特願2022-146887 細田 一史, 自己符号化を行うシステム、プログラム、および方法, 国立研究開発法人情報通信研究機構, 令和 4年 9月15日

特願2022-107734 細田 一史, 柏岡 秀紀, 学習装置、機械学習プログラム、および機械学習方法, 国立研究開発法人情報通信研究機構, 令和 4年 7月 4日

細田 一史, 瀬尾茂人, “生命システムにおける複雑ネットワークとその制御”, システム/制御/情報 第65巻 第5号「複雑ネットワーク研究の最前線特集号」 (2021)