2025年2月28日 Friday Lunch Seminar (英語で開催します)
12:15 〜 13:00
CiNet棟大会議室とOn-lineで開催いたします。
演題:集団アイデンティティと所属期間が社会的認知バイアスに与える影響:脳波同期を指標として
情報通信研究機構(NICT)
未来ICT研究所
脳情報通信融合研究センター
脳機能解析研究室
研究員 真田 原行
担当PI:成瀬 康
Abstract:
集団アイデンティティは社会的認知バイアスを誘発し、また集団への所属経験の長さはこのバイアスを増幅させうる。本研究は、競争的シナリオ視聴時における神経プロセスの個人間類似性を指標として、このバイアスを捉えることを目的とした。実験では、2つの野球チーム(阪神タイガースとオリックス・バファローズ)のファンに、両チーム間の野球の試合を観戦させた。ファン歴を、所属期間を表す変数とし、内集団(同じチームのファン)と外集団(異なるチームのファン)のペアについて脳波の同期を分析した。結果、内集団ペアでは、外集団ペアよりも中心頭頂アルファ活動の位相同期が強くなり、これはトップダウン的な空間的注意を通じた初期視覚処理の変調パターンが、内集団メンバー間で類似した可能性を示唆する。さらに、ファン歴の長い内集団ペアでは頭頂アルファパワーの同期が強くなったが、この効果は外集団ペアでは見られなかった。この結果は、おそらく内集団ペアでは同じシーンに対する興味や情動反応が共有され、それに伴う覚醒度の変化パターンが類似したことを反映すると考えられる。興味深いことに、ファン歴が長いペアほど、頭頂部デルタおよびシータ活動の位相同期が低下する傾向が見られた。これは、野球ファンとしての経験が長くなるにつれ、各シーンに対する後期注意プロセスの応答が変化する可能性を示唆している。さらに、前頭部アルファ活動の位相同期はファン歴とともに増加し、これはファン歴が長いほど聴覚刺激(試合解説)への注意が高まっていた可能性を示す。これらの知見は、集団アイデンティティや所属期間が神経プロセスにどのような調整をもたらすのかについて示唆を与えるとともに、脳波同期の分析が社会的認知バイアスを探る有効な手法であることを示している。