携帯電話など通信機器の多くは、視覚、聴覚、触覚(振動)の3つの感覚によって情報を伝えます。
温度の感覚は情報伝送の目的には脆弱過ぎるとみなされているため、商用機器において用いられた事はありません。
しかし、CiNetの新しい研究は、温度感覚はこれまで考えられてきたよりもずっとパワフルであることを示しています。
眞野博彰らは ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの共同研究者らと共に、ヒトが僅かな温度変化の検出を繰り返し行うと 一体 何が起こるのかを調べてきました。実験では、参加者が装着した温度呈示装置の温度を1度以下の小さな範囲で温かくあるいは冷たくなるように変化させ、温度の僅かな変動を検知するよう参加者を訓練し、その脳活動をfMRI装置を用いて計測しました。実験結果から、ヒトが極めて微小な(0.3度程度)温度変化を検出できるだけでなく、その検知能力が経験によって向上する事が分かりました。さらに脳計測データから、脳内には温感と冷感の検出にそれぞれ別のモジュールがある事を発見しました。このことは、脳に温度を感じるための複数の独立したチャンネルがある可能性を示しています(図参照)。
「実験結果に我々はとても驚きました。なぜなら、ヒトの温度感覚がどれほど洗練されたものかに気づいたからです。」と、研究を行った眞野 研究技術員 は言います。眞野博士はまた、人間には寒ければ暖かさを、暑すぎれば涼しさを求めるという基本的欲求があることからも、温度感覚はヒトの感情にも密接に関係すると指摘します。このことは、温度に反応する脳部位が情動に関わる原始的な脳領域と強い結合を持つことからも窺い知ることができます。
眞野研究技術員と共同研究者らは、温度感覚はこれまでのICTで用いられてきた視・聴・触覚の感覚、即ち、テキストや音とともに利用可能な、理想的なコミュニケーションチャンネルの1つと成り得ると考えています。温度感覚には、人々のコミュニケーション情報にさらなる深みや豊かさを与え、人コミュニケーションの質を高める新たな方法の1つになり得る事を示唆しています。
Reference:
Mano H, Yoshida W, Shibata K, Zhang S, Koltzenburg M, Kawato M, Seymour B.
Thermosensory perceptual learning is associated with structural brain changes in parietal-opercular (SII) cortex.
Journal of Neuroscience, 2017, URL: http://www.jneurosci.org/content/37/39/9380