自分の置かれた状況に合わせた適応的な行動をとるためには、ワーキングメモリの働きが不可欠であることが知られています。ワーキングメモリの機能は、脳の前方に位置する前頭連合野外側部が担うと考えられていますが、その具体的な神経メカニズムはよくわかっていませんでした。
今回、CiNetの渡邉慶を含む、Oxford大学と京都大学の共同研究チームは、ワーキングメモリを必要とする3種類の課題を遂行中の前頭連合野外側部から数多くの単一ニューロン活動を記録・解析することで、ワーキングメモリの神経メカニズムを明らかにしようと試みました。
その結果、(1)必要な情報をワーキングメモリにインプットするタイミング(記銘)と、ワーキングメモリから行動に必要な情報を引き出すタイミング(想起)では、前頭連合野の数多くのニューロンが強い相互作用を及ぼし合うことでこれらの情報処理が行われる一方で、(2)ワーキングメモリにインプットされた情報を記憶しておく数秒間の時間帯(保持)では、数秒から10秒程度のあいだ持続的な発火活動を示すニューロンが、記憶すべき情報に応じて異なるレベルの活動を示すことでワーキングメモリにおける記憶情報の保持が実現されていることが明らかになりました。
これらの結果は、ワーキングメモリに必要な情報処理の各段階において、具体的にどのような前頭連合野神経活動が重要な関与をするのかを示唆し、ワーキングメモリを担う前頭連合野神経メカニズムの解明に向けた重要な一歩であることが示されました。
Eelke Spaak, Kei Watanabe, Shintaro Funahashi and Mark G. Stokes
Journal of Neuroscience 30 May 2017, 3364-16; DOI: https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.3364-16.2017
http://www.jneurosci.org/content/early/2017/05/30/JNEUROSCI.3364-16.2017