金井良太: “Theory and practice of non-invasive electric brain stimulation: from tDCS to tRNS”

2014年06月23日  15:00 〜 17:00

CiNet 1F 大会議室

微弱電流による非侵襲的脳刺激の理論と実践:tDCSからtRNSまで

金井良太

University of Sussex, Sackler Centre for Consciousness Sciences

ヒトにおける非侵襲的脳刺激を用いた研究では、磁気刺激と電気刺激というふたつの刺激方法が用いられている。TMS (Transcranial Magnetic Stimulation)のような磁気刺激ではパルス状の磁場変化により、ニューロンの軸索が直接的に刺激されるのに対し、 tDCS (transcranial Direct Current Stimulation)を中心とした微弱電流による刺激は、ニューロンの膜電位を変化させることで発火頻度に影響を及ぼす。tDCSで用いられる電流は1mA程度であり、非常に微弱であるが、頭皮経由で電流を透過させることで、長期的な神経の活動性の変化を引き起こすことが可能であることが示されている。tDCSは、電極の極性により標的となる脳部位の興奮性を変化させ、その効果は刺激終了後も数十分から数日の間続くことが知られている。陽極側(アノード)による刺激は、刺激下の部位の興奮性を一時的に向上させ、認知機能をも向上させることがある。一方、陰極側(カソード)による刺激では、ニューロンの興奮性を抑制する。このような効果から、脳卒中の患者へのリハビリテーション効果や、健常者での認知能力向上効果といった応用の可能性が検討され始めている。

本講演では、基礎研究により明らかになったtDCSの作用のメカニズムを解説し、最近の研究に於ける応用例を紹介する。また、微弱電流による刺激法は、直流電流によるtDCSにかぎらず、経頭蓋ランダムノイズ刺激(transcranial Random Noise Stimulation, tRNS)や経頭蓋交流電流刺激 (transcranial Alternating Current Stimulation, tACS)といった新しい刺激方法も提案され、研究が進められている。tRNSは、直流電流ではなく高周波成分を含んだノイズ状の電流を送るものだが、学習能力を一時的に向上させ、記憶を長期間定着させるなどの、リハビリテーション効果においては、tDCS以上の効果を示す。また、tACSは脳波に現れるようなアルファ波やガンマ波などの周波数に合わせた周波数の交流刺激を用いることで、特定の周波数の脳波がどのような機能を果たしているのかを研究する手法として使われている。また、多電極のtACS を用いることで、離れた脳領野間での脳波の位相を同期させることなどが可能となりつつある。また、磁気刺激と比べて、電流は拡散してしまうために、標的の脳部位に正確に誘導することが困難であるが、この空間解像度の問題も改善されてきている。例えば、拡散MRI画像などを用いて組織のインピーダンスを推定することにより、脳内での電流の流れのシミュレーションを行い、標的となる脳部位での電流密度を最適化する手法が開発されている。本講演ではこれらの微弱電流による脳刺激法のトピックについて、自らの研究内容を絡めながら総合的に研究の最先端の発展を紹介する。そして理論的側面をひと通り概観した後に、neuroConnの刺激装置を用いてハンズオン実習を行う。本講習では、tDCSの実験などの初心者の方でも実験を始められるように、具体的な装置の利用方を説明し、実際に刺激を行う際の注意点やコツについて解説する。また、認知神経科学の実験への脳刺激の導入を検討している研究者に対しては、実際に装置に触れながら、実験上のニーズに応じた実験手法についてのアドバイスを行う。