何が我々を損したと感じさせるのか?

欲しているものを得られない感覚は、欲していないものを得る感覚と同じでしょうか?この緻密な疑問は、心理学ならびに神経科学において過去数十年にも渡り、議論を引き起こしてきました。一見、二つの感覚は類似しているかのように聞こえます。そのため、例えば、金銭を得られなかったり、恋人との関係を失う感覚は、痛みの感覚と同じだとする、一般向けの考えが支持されていました。しかし、その他の状況における損失、例えば、賭け事で勝利を得られないような場合の感覚は明らかに異なります。CiNetの研究者であるベン・シーモアと丸山雅紀はケンブリッジ大学のBenedetto de Martino博士と協力し、異なる神経活動により生じる損失の感覚に焦点を当てた総説を発表しました[注]。シーモアらは経済学の理論に基づき、損失を受けた時に生じる感覚の鍵は、脳内で設定されている参照水準にあるとし、一般的に良いか悪いかを我々が判断する平均的な基準になると述べています。それらの科学的発想から、慢性痛と疾患に関する新しい共同研究の基礎が形成されました。

本研究は日本学術振興会『頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム』の助成を受けたものであり、CiNetとケンブリッジ大学ならびにプリンストン大学との痛覚研究分野における共同研究の一部として行われました。

[注] Ben Seymour, Masaki Maruyama, Benedetto De Martino. “When is a loss a loss? Excitatory and inhibitory processes in loss-related decision-making.” Current Opinion in Behavioral Sciences Volume 5, Pages 122–127.

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352154615001199