木村 實: “光遺伝学と多チャンネル記録によって大脳基底核直接路、間接路の機能を明らかにする”

2017年09月14日  15:00 〜 16:00

CiNet 1F 大会議室

木村 實

玉川大学
脳科学研究所

担当 : 春野雅彦 (PI)

Abstract:

人間や動物は、将来の目標に向けて予測・計画を立て、実際に行動した結果の良し悪しによってアプローチを改善しながら到達する。その過程には大脳皮質、基底核、中脳ドーパミン系の神経回路が主要な役割を担うことを示唆する知見が蓄積している。私は、日本ザルを対象とする行動課題と神経活動記録によって、線条体細胞による刺激、運動と報酬の連合と学習、行動価値の表現、ドーパミン細胞による長期的な報酬予測と誤差の表現、視床線条体細胞による刺激、行動選択機能などを明らかにしてきた。一方、脳のはたらきを理解するためには神経細胞による情報表現の理解だけでなく、脳領域特異的な情報を生み出す局所神経回路、領域をつなぐ神経回路の同定とそれらの因果的な関係を理解する必要がある。そのためには伝統的な手法だけでは困難である。
トランスジェニックラット、光遺伝学と多チャンネル記録法を導入して、目標に向けた行動の評価、行動選択と学習に関わる直接路と間接路特異的な役割を検証するための研究を行った。線条体の直接路細胞と間接路細胞を同定し、報酬の大小に基づいて行動選択を行う際の活動を調べた。直接路細胞は行動選択の結果報酬を得て次に同じ選択をする時に活動し、間接路細胞は無報酬の結果次の選択を変更する時に強く活動した。光刺激によって選択的に直接路細胞の応答を促進・抑圧すると、同じ行動選択の確率が増大・低下した。間接路細胞の無報酬応答を増大させると選択を変更する確率が増大し、神経細胞活動から推定される機能を実証した。これらの新しい知見は、線条体の2つの投射系が行動結果を異なる様式で評価し、強化と懲罰という異なる役割によって、より多くの報酬を得るという目標に向けた行動選択に貢献することを示す。
ドーパミン系を中心に関連する他の研究と併せて、大脳基底核の神経回路機能を議論したい。